ポップンガーリーキュートキュート

  あはははは、と笑う声が夏の光にとてもよく似合う。かわいいものしか身に着けたくないって彼女はそう言って僕があげたMONOの消しゴムをポーンって放り投げた。そんな彼女がゾンビに襲われていると、僕はそれをたまたま地下鉄駅の構内アナウンスで聞いた。

「桜黄桜高校三年一組の吉野坂みんとさんが、ゾンビに襲われているため、ただいま五分遅れでの運行となっております。お急ぎのところ申し訳ございませんが……」

 それを聞いて僕は何気ないふりを装っていたけど心の中はドキドキしていた。今スグにでも走っていきたいけど、今走ったらあいつ吉野坂のこと好きなんじゃないかと思われるのもいやで、僕は何気ないふりをして、しょうがない迷惑な奴もいるもんだなあと目をつぶり、普通の乗客を装って早く五分経たねえかな、と思っていた、そのとき

「あははははははは」

 地下鉄のトンネルの向こうから夏がやってきたのかと思うくらい明るい声が響いて駅構内に入ってきたのは電車ではなく緑の芝生だった。芝生はトンネルをぐるりと取り囲みながらこちらにやってきてふかふかで地下鉄の蛍光灯もなぜだか暖色を帯びてぐるぐると朝顔のつるが巻き付いて花が咲いていた。

「あはははははは」

 金属。吉野坂の最後の「は」は確かに金属だった! 僕はえー、なんでこんなところに芝生がたくさんあるんだろうー、暇な学生風情だしいっちょ冒険気取って何が起こっているか見に行こうかなーと、あくまで理由は吉野坂ではなく、芝生なんだけどねーという風を装いトンネルの向こうへ走った。走りだすとすぐに吉野坂が芝生にスカートで座って太ももが白かったし、彼女はひまわりを手折って頭に飾って笑っていた。その傍らにいるゾンビは全然かわいくなく、醜い手でみんとのわき腹をくすぐっていた。そのたびにみんとははははと笑うが、だんだんその笑い声が金属みを帯びてきて

「たすけて」

 僕はMONOの消しゴムを右手と左手の間に挟み込みゾンビめがけて突進する。ゾンビは醜い顔で僕を見て大きな口を開け、その遠く後ろがふっと明るくなってぷあん、と地下鉄が走ってくる。僕はゾンビを消しゴムで殴りつけながらも吉野坂の髪留め、吉野坂の花柄のブラウス、吉野坂のカバンについたリボンを見ていた。ゾンビは僕の手にかみつき、すぐに僕の消しゴムを真っ黒の消しカスだらけにして、、地下鉄の電気が当たる彼女は芝生の上に足を投げ出してお澄ましな感じで今年はどんな水着を買おうなんて顔をしていた。


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