スパイダーソリティア

 「隆史はそういうの、見ないと思ってたのに」

 ディスプレイでは知らない男女が大げさにまぐわっていて、俺は丁寧に靴下まで脱いでティッシュを左手に持っていて、そのティッシュボックスはディズニーのミッキーのティッシュカバーがついていて、それ自体が彼女との柔軟剤と同じ匂いがして、なぜかってここは彼女の部屋で、就活中なのにパソコンを持ってないと言ったら全然使っていいから、と言われて、彼女のマイクロソフトのウィンドウズ7が載ったモデルチェンジ前のノートパソコンのグーグルクロームで検索して就活サイトに登録して最初は「営業企画」「海外営業」なんてワードで検索して、なんとなくエントリー画面に進んでそのあまりの入力項目の多さ=画面の白色の占める部分に圧倒されて、なんとなく、なんとなく、グーグルクロームでシークレットモードにして、アダルトサイトを検索して、再生した動画はフェラの部分を飛ばして挿入部分までバーをクリックして、そんなときに彼女が買い物から帰ってきた。

 エコバッグの膨らみ方でツナ缶とパスタとニンニクを買ってきたんだろうと分かって、それを当てたら彼女は笑ってくれるかなと思って、エコバッグから目を上げると俺より一年先に社会人になった彼女は多分仕事で見せるような厳しい目をしていて、就活サイトの入力項目より白い白目で、俺をみていた。


「さいってい」

 の彼女の声はあおーんあおーんという女の矯正にかき消され、くるりと後ろを向いてそのまま出て行くかと思いきや、エコバッグをキッチンに運んで当初の予定通りパスタを作り始めた。そらそうだよな、ここ彼女の家だもんな。

 動画をストップして、でもとってつけたように就活サイトに戻る気にもなれなくて、「最近使ったファイル」にあった蜘蛛のマークが書かれたゲームを開いて、やり方分からないけどなんか適当にトランプをあっちこっちにやったらもう飽きて、俺はこんなつまらないゲームで空白の時間を埋める彼女の姿を想像してすこし寂しい気持ちになって、スコア記録を見たら上級編を何度かクリアしていて、それでますます寂しくなって、彼女がパスタを作り終える前に初級編だけでもクリアしよう、これだけは今日やろうって、かちかちと、マウスをクリックしてたらざばー、べこんとシンクの鳴る音がして、ちょっと遅れてゆでたパスタの匂いが俺の鼻をくすぐって、俺はマウスをクリックするのを思わず止めてしまいそうになる。


0 件のコメント:

コメントを投稿