あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する

  あれはいったい何だったのだろう。いつもこの時期になると思いだす。ほかのバイトはデートや旅行で不在のクリスマスイブに一人シフトを入れられて、風邪なのにさばききれない量の注文を店長と二人でさばいた後に、日付が変わる時間にやっと解放されて街灯がまばらになる帰路をとぼとぼ歩いたこと。家に着いて携帯にメール通知が来ていて開くと店長からの「ごめん言い忘れてたけど明日もシフトお願いね!」という一言だったこと。シャワーをひねっていくら待ってもお湯が出てこず給湯器が壊れているということが分かるまで裸で立ちすくんだのち、寝間着に着替え12時間の立ち仕事でマシーンと化した私の手足を抱え込むようにしてそのまま眠るしかなかったこと。

 高熱、寒さ、みじめさ、なぜ、という気持ち、それらは苦しみとなって私を襲った。布団の中で苦しみが私を蹂躙する。眠りたいのに眠れない、寒い、つらい。苦しみは私の頭の中で大きく膨らみ、私は助けを求めて声を張り上げるが、ヒューヒューというかすれ声でうまく叫べない。いつの間にか金縛りに襲われ、私は四肢の自由を奪われた。

「苦しいだろう」

 私に馬乗りになる形で真っ黒な45Lのポリ袋を担いだ黒服のサンタクロースがそこにいた。私はそれでピンときた。これは負のサンタだ。正のサンタが与えるならば、負のサンタは奪うはず。黒い大きなポリ袋はきっと私たちのような特に望みも持たずにのうのうと生きている人から苦しみを吸い取ってくれるはずだと。私のこの苦しみを引き受けてくれるはずだ。

「残念、不正解だ」

 黒のサンタはポリ袋から真っ黒な、びちょびちょに濡れた靴下を取り出し、それを私の足に履かせ始めた。私は抵抗するが全く身体が動かず、右と左の足にぎゅっぎゅっと濡れた靴下を無理やり履かせる。私はあまりの冷たさに卒倒しそうになる。黒サンタは満足したように決め台詞を言う。「メリー苦し」その先は言わせてはいけない。それではもう私が折れてしまう。もうあらゆる意味で立ち直れなくなりそうなので「明日もバイトなのでもう寝ます!」と半ば気を失いながら叫ぶと、ふっと体が軽くなってそのまま眠りについた。

 翌朝、寝汗まみれで起きた私はのども鼻も痛かったし、筋肉痛がバキバキいうが、なんとか起き上がることができた。昨日よりは少しだけ元気であった。なんでバイトのことが頭に浮かんだのか、それについては苦笑するほかなった

 それ以降黒サンタは姿を現さない。健康だけは人に与えることはできないという教訓だと勝手に解釈し、その日以降せめて体調管理だけはしっかりするようにはしている。


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