飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する

  目の前に腹を空かした犬がいるので桃太郎がきびだんごをやると恩を返したいと言ってついてきた。しかし桃太郎は別に鬼退治に行こうとしていたわけではなく、近所のイオンに乾電池を買いに行くところだった。桃太郎は乾電池を買う上で十分な財を持っていたし、特に戦うべき敵もいないので犬がいたところで何の役にも立たない、犬がついてくるのはかえって迷惑だと思った。

 きびだんごをやったその瞬間はまあいい気分だった。差し出されたきびだんごに遠慮せずにがっつく姿はちょっと自分に足りない部分だな、と思い、失われたハングリーさを自分に与えてくれた。イオンで乾電池を買って外に出ると待ちかねたように犬がすり寄ってきた。桃太郎は犬より猫派であり、実際に愛玩用として猫を飼っていたので、犬を飼ったところで自分にはリターンはないし不要だと思った。さっききびだんごを食べたところなので犬は腹は減っていないが、じきに腹は減るのだろうと思った。そうなると少しうっとうしい気持ちもした。腹というものは放っておけば減るものなのだと、当たり前のことに桃太郎は気付いた。そして腹が減っていないときに先んじて腹の減ったときのために準備をするのはどうかと犬に提案した。犬はどうしていいのか分からず笑ってハッハッと舌を出していた。桃太郎は家に帰るとおばあさんにきびだんごの作り方を教えてもらい、犬にそれを伝えた。犬は説明の飲み込みが早く、穴を掘って土を耕す才能もあったので、うまく黍を育てられそうだった。ただそうはいっても黍が育つのはまだ先の話であり、犬も穴は掘れても種まきや収穫作業は難しいのだろうと思った。そのうち犬は腹を空かせてぐるるると鳴き出し、ワン、ワンワンと桃太郎に対して吠え、さすがに桃太郎もいらだちを隠すことができず、思わず腰の刀に手をやった。

 結果として犬は数年後には黍を継続的に栽培することが可能になり、米など他の作物も収穫できるまでになり、桃太郎とおばあさんに大福餅をお返しするのだが、桃太郎自身にもなぜあのとき根気よく犬にきびだんごの作り方を教えられたのか理解できなかった。愛とか、地球とか、大きな言葉は知っていたが、あまりそれを使う気にはなれなかった。

「仲間」

 ぽつんと頭に言葉が浮かび、同時に幼少期からしばらく一緒にいた生活力のない友人のことをも思い出した。「仲間」と桃太郎はつぶやくと、輪郭がすでにぼやけかかっているその友人のことを考えながら緑茶で餅を流し込んだ。


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