夢の樹

 小さな幸せを大事にする、ということは、溶けかけの飴玉を舌の上で転がし続けることなのです。昔母に教えられたまま、そうやって生きてきたのに、いま圧倒的な量と質の幸せを目の前にして、私の足はすくんでしまっています。あなたが次から次へと繰り出す幸せを、昔の歌にあった昆虫のようにしがみついて刷毛の舌で嘗め回す私です。あなたは私がしたかったことを、すべてかなえてくれます。私はあなたの子供を来月産みます。あとは家がほしいのですが、あなたには死んでいただいて、そこから得るお金で家を建てさせていただきます。ありがとうございます。きっと立派な家になりますし、家壁にはあなたの骨も混ぜるつもりです。あなたを思いながらその壁にもたれて頬を冷やすことも、ときには舌を這わせる夜も、きっとあると思います。

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