百年と八日目の蝉

  お祖父さんの最期、ねえ…。あなたも知っての通り、お祖父さんはとても穏やかな人だったわ。特にお祖母さんが亡くなってからは、つらいだろうに、そんなそぶりは一つも見せないで、いつもにこにこ笑っていたわ。百歳の誕生日ね。老衰でいよいよ、と聞いて、もしもに備えてずっと布団の横にいた。お祖父さんは苦しそうな顔は全然しないで、息も乱れてなかった。ただ、股間がとても盛り上がっていたの。最初は大きいのかと思って、替えの下着を持って着替えさせたんだけど、違ったの勃起だったの。慌ててパンツを履かせようとするんだけど、もう履かせられないのね。それだけしっかり勃起していて。え? まさか。見てるだけよ。特に苦しそうでもないしね。今思えばお医者様に連絡するべきだったのだろうけど、あまりに穏やかなものだから、それもできず、一週間経ったかしら。月夜ね。カサカサする音で目が覚めると、お祖父さんの先っぽで蝉が羽化しているの。月の光で蝉が羽根を乾かしているの見て、寝ぼけながらも、ああ、お祖父さん、死んじゃうんだなって、わかったわ。朝になって蝉がおしっこしながら飛んでいくのを見て、なんか、似つかわしいなあ。って、思ったわ。

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