出てって

  テレビの真横でもなく、カーテンの近くでもなく、かといってテーブルの脇というわけでもない、リビングなのに何か死んだ感じがする場所に鬼が立っていた。背は女の私より少し低く、目はかっと開いたまま。形相は恐ろしいがこちらに近寄るわけでもなく、開きっ放しの目がだんだん滑稽なものに思えてきたのでとりあえずテーブルに着くよう促した。

 椅子に座る鬼を背中に、はてさて何をと冷蔵庫を開け、少し迷って冷奴を出した。鬼は表情を変えずに豆腐を見、やがて一口で平らげた。食べるんかい、と驚いて、次の日は激辛麻婆豆腐を出したがそれも食べた。その後も味噌汁、豆乳スープ、大豆ハンバーグ、豆大福などを出したがすべて食べた。納豆を出した時には少し嫌そうな顔をした、気がした。しまった、さすがに露骨すぎたかと思ったが結局食べた。今日は熱々の湯豆腐だった。表情は全く変わらないのに熱そうなのが分かるのが不思議だ。明日は二月三日。もう遠慮はいらないぞ、と戸棚にしまってある、バケツ一杯はあろう炒り豆を思い浮かべて私は少し震えた。

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