百年と八日目の蝉

 「あなたの百年の人生、振り返ってみてどうですか」と言われて思い出すのはひ孫や何やに囲まれて迎えた誕生日のことだが、それが還暦だったか喜寿だったか傘寿だったかそれとも八日前の誕生日のことか、とにかく人に囲まれてありがたいな、ありがたいなあと思っていたことは覚えている。地方局の女性レポーターが差し出すマイクに向けてありがたいことですと口を動かそうとし、それでは感動は伝えられまいと手ぶりを交えようとしたら、レポーターの突き出した胸に偶然にその左手が触れた。かっと頭の中で警報が鳴り、連動するように左手の節々が少しずつ収縮していく。ない歯をがたがた言わせて口から漏れるのは感謝の言葉かそれとも。

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